霊感なんてあまり信じてなかった話3
呼び出された駅に行くと、濃い緑色の軽自動車がバスロータリーから少し離れた場所に止まっていた。なんとなくだが、「Mさんっぽい色の車だな」と思ったことを覚えている。
M「じゃあ早速いきましょうか。大体2時間くらいかかります。」
分かりました。
車内では緑黄色社会の曲が永遠に流れていた。Mさんはどちらかといえば、ダーク系な曲が好きそうだなと思っていたから、意外だった。
M「ところで、、その……霊がついたな、みたいなきっかけとかって思い当たる節あります?正直すごく今も怖いんですけど。」
俺「当てはまるかどうかはちょっと分からないんですけど。実は昔付き合ってた人がいて……」
思い出したくない、できればずっと忘れていたいパンドラの箱を
自分の手でもう一度開けるように
車の中でMさんに話し始めた。
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遡ること約10年前。
当時大学生だった私は、深夜のコンビニでバイトをしていた。
22時~6時のシフトの私とは入れ替わりの栞さん(仮名)という女性がいた。
私と同学年な栞さんは、近くの美術大学に通いながらも週4、5シフトに入っているベテラン組だった。いつだったか、シフトの調整ミスがあり、私と栞さんの二人で深夜に入ることになったある日。
俺「栞さんってめちゃくちゃバイト入ってますけど、大変じゃないですか?」
栞「金が欲しいから。親の金もらって、遊んで呑んで、そんで貧乏アピールしてる大学生見るとマジでむかつくんだよ。」
・・・・・・尖ってんなぁ
素直にそう思った。
栞「でも、蘭ぷ君も言うてシフト入ってるよね。お金困ってんの?」
俺「まぁ、大学自体行くの嫌なんですけど。色々あって、行かされてる感じですね。でも、学費は全部自分で払わなきゃいけない、みたいな。」
栞「意味わかんないんだけど。」
俺「まぁ、本当は専門学校行きたかったんですよ。所謂『大学出なきゃロクな人生歩めないぞー!』って言われて、ずっと喧嘩してて。最終的には『大学に行かなきゃ入学金も受験代も出さない』って言われて、こっちが折れるしかなくって。田舎の公立学校だったんで、バイトも禁止されてて。」
栞「ってことは、入学金とか出してもらって今の大学に行ってるってことじゃん」
俺「いや、その建て替えてもらってるみたいな感じっす。結局そこからは半年ごとの授業料を半年分親が前払いするから、半年間で自分で返す、みたいな。」
栞「奨学金とかは?」
俺「利息がかからないものしか借りてないですね。それもちゃっちゃと返したいんで、バイトしまくってるんすよ。」
栞「そ。」
少し、栞さんが笑った気がした。
栞「私もさ、親とずっと喧嘩してんの。美大なんか行って何になるんだって言われて。まぁ、大学とか関係なく、昔から放任主義?ネグレクト?だったから嫌いなんだけどさ。放任癖のくせに、体裁とか気にして急に親面されるからむかつくんだ。」
物心つく頃から妹と比較をされる対象だったことを品出し作業をしながら話してくれた。自分のごはんだけが抜かれていることも当たり前、お小遣いも自分だけ貰えない、学校行事も妹のには来る、そんな生活だったことを教えてくれた。
栞「ま、ムカつくんだけどさ。一般的には親は大事にしなさい!って風潮がさ。強すぎなんだよ。」
俺「・・・なんとなく言いたいことはわかります」
栞「だから早く一人暮らししたいんだけどさ。金も美大で結構かかっちゃうのと、保証人がさ……書いてもらえなくてさ。保証人いないとどこもダメって言われるし。」
俺「美大もお金かかりますよね。保証人かー…」
栞「この年齢で学生だと親か祖父母しかだめっぽい。だから、こーやって、できるだけ毎日バイト入れて家にいる時間減らしてんの。ウケるっしょ。」
自虐気味に笑うその目は全く笑っていなくて。
すぐ近くにいるはずのその声が、ふっと消えてしまいそうな儚さを帯びていた。
俺「……じゃぁ、俺ん家バイト先からすぐですし、拠点にしてもいいっすよ。」
自分でも何故こんな言葉が急に出てきたのか分からないが、これが栞さんとの始まりだった。
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